宮部みゆき 『鳩笛草』

鳩笛草―燔祭/朽ちてゆくまで (光文社文庫プレミアム)

幼い頃に両親を事故で亡くし、その記憶すら失った女性。一緒に暮らしていた祖母の死を契機に、住んでいた家を処分することになります。その際に、封印されたかのようなビデオテープを見つけます。そこに映っていたのは頭が痛いと泣きながら、撮影の時点では知るよしもない未来の出来事を語る幼い自分でした。(「朽ちてゆくまで」)
高校生だった妹を、ある日突然失った青年。妹を殺しておきながらのうのうと生きている犯人に怒りを覚える彼の前に、自分はそいつを殺すことができると持ちかける女性が現れます。念力放火能力とでも呼ぶべき力を操る彼女が姿を消して2年、妹を殺した犯人が焼死したことを青年は知ります。(「燔祭」)
人に触れるとその人の心を読むことができる女性。刑事としてその能力を生かしてきた彼女ですが、ある時その力が衰えて消えていきそうになっているのかもしれないという懸念を抱きます。(「鳩笛草」)

超能力を持った3人の女性の姿を描いた短編集。20年以上前の作品ではありますが、描かれる時代背景は感じるものの、人と異なる能力と向き合う主人公たちの、戸惑いや不安、喪失感といったものがみずみずしく描かれます。
そして何かを失った代わりに彼らが何かを得る結末には、人が生きていく強さがあると言えるでしょう。