吉永南央  『まひるまの星 紅雲町珈琲屋こよみ』

まひるまの星 紅雲町珈琲屋こよみ (文春文庫)

紅雲町でコーヒー豆と和食器を扱う小さな店を営む老女の草は、他界した母親と20年ほど前に仲違いした鰻屋の清子との没交渉になったまま渡せずにいた母の形見の着物のことが気になっています。そんな中、事情があって山車を置いていた土地の持ち主がその土地を売ることになり、草の店の前に山車を置く話が出てきます。店の営業にも差し障ることもあり、出来れば鰻屋に接した土地に山車を置けないかという案が持ち上がってくるのですが…。

鰻屋の清子と草の母親との間に、20年前に何があったのか。自分と清子の間にも引き継がれてしまった確執に、何とかならないものかと悩みつつ、少しずつ見えてきた2つの家族の問題は、町全体を巻き込むものになっていきます。
連作短編集の形で展開するこの物語では、少しずつ見えてくる家族の問題の根が、思わぬところにあったことが明らかになる驚きだけでなく、老女の静かでゆっくりとした日常を通して描かれるやるせなさのようなものも描かれます。
どうしようもない現実の中に生きていながらも、一本筋の通った草の生き方が素敵な一作。