恩田陸 『EPITAPH東京』

EPITAPH東京 (朝日文庫)

 「東京」をモチーフにした『エピタフ東京』の戯曲を書こうとしている「筆者」と、「吸血鬼」だと名乗る吉屋。「東京の秘密を探るためのポイントは、死者です」という吉屋の言葉を聞き、将門の首塚をはじめとした幾つかのスポットを時に友人と共に辿る筆者の日常と、死をも超越して「東京」という街を俯瞰で眺める吉屋の視点、そして少しずつ構想が固まり断片的に挿入される作中作の『エピタフ東京』の3つのパートで描かれる作品。

 まず、「小説」としての物語を求めると、本書はかなり奇異でとっつきにくく、起承転結の起伏も見えずに、「著者」のパートのタイトルに冠されている通りの「Piece」という言葉通り、断片の寄せ集めのような作品であることに戸惑うかもしれません。
 ですが、この作品の主人公は「東京」という都市であり、長い時間この街を見続けてきた吉屋と、東京をモチーフに盛り込んだ戯曲を描こうとする筆者という、奇妙な登場人物を通し、様々なアプローチで考察をした作品であるとすると、この激変する都市の成り立ちの背景を考えるユニークさが見えてきます。
 本作における最終目的は「東京という都市の墓碑銘」を模索するというものであり、この墓碑銘のために二人の登場人物が必要だったのだなということが分かる結末でした。