石崎幸二 『首鳴き鬼の島』

首鳴き鬼の島 (ミステリ・フロンティア 35)
 雑誌で怪奇スポットの特集記事を担当することになった稲口は、首と胴体を切り離されても尚、首を求めて胴体が彷徨い、鳴き声を発したという「首鳴き鬼」の伝説が残る頚木島へと向かいます。稲口は、頚木島へ行くにあたり、学生時代に恋心を抱いていて、偶然再会した茜を同行し、そして現地では、学生時代の友人であり現在は大学で助手をしている影石と顔をあわせます。ですがこの頚木島で、あたかも首鳴き鬼の伝説をなぞるような見立て殺人が起こってしまいます。

 オーソドックス過ぎるほどにオーソドックスと言っても良いような本格ミステリ
 外界から隔絶された孤島、死体切断、伝説に見立てた連続殺人というガジェットに彩られた本作ですが、正直なところある程度読み慣れた読者であれば、トリックや展開、結末を予測することもさほど難しくはありません。ただし、難易度そのものは決して高くは無いとはいえ、作中における論理には大きな破綻も見られず、警察の科学捜査を欺くトリックも良く出来ている点は高い評価に値するものでしょう。
 本作のような作品において、登場人物の人物造詣に関しては、問題にすべきでは無いのかもしれませんが、女性の描き方が類型的過ぎるきらいがある点は気になりますし、主人公の稲口の思考・行動パターンがセンチメンタル過ぎる部分でも、ある程度読者との相性のある作品だということは言えるかもしれません。
 些かオーソドックス過ぎて、結末の意外性などのサプライズの面での弱さは感じないでもありませんが、この種のトリックを扱うミステリとしては、教科書的とも言えるほどに良く出来た一作。