シャロン・サラ/カーラ・ネガーズ/ヘザー・グレアム『ミステリー・イン・ブルー―危険な饗宴』

 三人の人気ロマンス作家の海辺を舞台にしたロマンチック・サスペンスのオムニバス。

シャロン・サラ 『溺れた人魚』

 犯罪組織に潜入していた麻薬捜査官のケリーは、以前彼女が刑務所送りにした男によって正体をばらされ、危うく組織のボスのドミニク・オルテガに殺されそうになります。間一髪で逃げ出して、たまたま休暇を取っていたレンジャーのクインに助けられますが、ケリーには100万ドルの賞金が掛けられていました

 話の筋は良くあるものですし、展開もその意味では安心して読めるものではありますが、長編で十分読めるものを短編に押し込んだような食い足らなさもあります。また、最後はかなりご都合主義な人脈の権力を使ってすんなり行ってしまうあたり、逆に予想外過ぎて驚きました。

カーラ・ネガーズ 『愛と欲望の島』

 女医をしているアントニアに、彼女が患者の信頼を裏切ったという、身に覚えの無いインスタントメッセージが送信されるようになっています。駐車場で車に乗り込む前に誰かに名前を呼ばれた気がしたり、気味の悪いことが続いた彼女は恋人のハンクにも行き先を告げずに、ケーポ・コッド近くの自然保護区となっている島へと一人で出かけますが――。

 他に誰も人間のいない孤島に近付くハリケーン、そしてストーカーの影。アントニアを付け狙ってダニや蚊に悩まされながらも偏執的な妄想を繰り返すストーカーの男の内面というのは、どうも行動の段になると間が抜け過ぎていることは気になりますが、それなりに短編ながらも上手く描かれている作品。ただ反面、アントニアの恋人が上院議員に立候補を控えているという設定とあまりにも合わないキャラクターであることや、アントニアの妹とその元婚約者の間で何があったのかが結局明かされない辺りは、少々未消化と言わざるを得ないでしょう。本作が妹の話のスピンオフであるというのなら、まだ分かるのですが。

ヘザー・グレアム 『ジャスミンは死の香り』

 病に伏したキャサリンの父が死に瀕している時、病院に見舞いに現れたのは彼女の親戚のデイビッドでした。幼い頃の記憶がほとんど無いキャサリンですが、彼女の親族が今でも暮らしているマイアミにある島へ来て欲しいと誘われ、かつて母親が死んだその島へと足を踏み入れます。母親に生き写しのキャサリンを、島で暮らす親族の中には快く思わない者もいて――。

 事故だと思われていた母の死が、殺人であることがじわじわと分かっていく過程は、短いながらも魅せ方を心得たサスペンスの名手の手腕を見ることが出来る1篇だと言えるでしょう。ただ反面、デイビッドも含めて、生前のキャサリンの母親との関わりが非常に記述的なレベルに終わってしまっているために、今ひとつ伝わらないものも多かった作品でもありました。
 長編として描かれていたら、あるいはもっと深く掘り下げた作品になったかもしれませんが、犯人がその真の姿を現す辺りなど、少々唐突な印象があったのも含め、食い足らないものが多かった1作。