J・D・ロブ 『汚れなき守護者の夏 イヴ&ローク15』

汚れなき守護者の夏 イヴ&ローク〈15〉
 イブが目を掛けていた巡査のトゥルーハートが、バットで突然隣人を殴り殺したという男を射殺します。発砲について厳しい追及を受けるトゥルーハートに心を痛めるイブですが、男の死因は脳が破裂したかのような奇怪な症状によるものだと判明します。調べるうちに、この男が子供を食い物にする卑劣な犯罪者であり、同じような悪党が同様の死を遂げる事件が続きます。そして、奇怪な死を遂げたこれらの者たちのコンピュータ画面には「完全清浄完了」の文字が残されていました。

 テクノロジーを用いた犯罪、そして犯人はあたかも正義を行っているかのように振る舞い、本作の被害者にはあまり読者の同情の余地も無いというのは、特殊な状況ではあります。ですがそうした状況において、「子供に対する犯罪を強く憎むイブ」という部分が些か弱いのは、これまでのシリーズの流れからいったら少々気になるところ。
 警官仲間であり、イブらとはある種ファミリーでもあるマグナブやピーボディらとの絆などの読ませどころは押さえてあるものの、犯罪者の駆け引きの面では些か単調な展開であり、全体的に起伏に乏しい印象を受けるのは残念。
 ですが、マスコミや権力に対する、一警官としてのイブの存在や、パワーバランスの駆け引きを見せつつ、それらを後半の伏線にもしてしまったプロットは非常に良く出来ていると言えるでしょう。
 シリーズも巻数を重ねて成熟しており、過去作品の登場人物が絡む展開も楽しめました。