有栖川有栖 『女王国の城』

女王国の城 (創元クライム・クラブ)
 アリスら大学の推理小説研究会のメンバー達は、新興宗教団体<人類協会>が拠点にしている神倉という土地へ、何やら事情があって来たらしい先輩の江神を探しに訪れます。名のある建築家によって建てられた、<城>と呼ばれる<人類協会>の本部にいた江神と、やっとのことで再会した彼らですが、聖地とされている洞窟で殺人事件が起こり、外部に事件を知られることを嫌う幹部信者によって<城>に軟禁されてしまいます。

 実に15年ぶりとなる学生アリスのシリーズですが、前3作と同じく、良い意味で青臭さがある一方、著者の作家としてのキャリアが成熟したことで、小説としての展開の面白さや、読者にアピールする(良い意味での)あざとさがうかがえる作品。
 ひとつひとつのトリックに関して言えば、これらは基本に忠実なオーソドックスなものと言えますが、それらの組み合わせ・配置の上手さ、また事件の起こるタイムテーブルの緻密さは特筆に値するものであると言えるでしょう。作中で起こる事象の繋がりとその構造は、11年前の出来事をも見事に組み込んで解き明かされますが、偶然や物的証拠のみに依存せずに、ロジックで解明される手際が実に見事。
 宗教団体特有の閉鎖性で、事件が起こったことを隠蔽しようとする信者達と、警察に何とかして知らせようとするアリスたちゲストのせめぎ合いが、事実の積み重ねとロジックによる解明という静的な展開に対して動的な要素を加えており、結果、本作は非常に起伏に富んだ作品になっています。そして、何かを隠そうとする<人類協会>の秘密に関しても、隙のない論理とその解明の演出が実に劇的に行われます。
 また本作が舞台とする時代はバブル経済の真っ只中であり、インターネットも携帯電話も出て来ない、ある意味レトロさを感じさせるものがあります。そのレトロさとアリスらの青臭さが良い具合にマッチングしていることも、本作の上手さであると言えるでしょう。
 何より、前作から15年以上のブランクがあるにも関わらず、アリスと江神、マリア、そして織田と望月の推理小説研究会の面々が、作中の時間軸の中で成長しつつも、変わらない存在であったことが嬉しい1作でした。