有川浩 『三匹のおっさん』

三匹のおっさん
 生徒がいなくなった剣道の道場を閉め、還暦を迎えた清一はそれまで勤め上げた会社も定年退職をします。態度のなっていない孫の祐希や息子夫婦の仕打ちに腐りながら、新たに退職した会社の系列店に嘱託で勤める生活をスタートさせた清一に、幼馴染の重雄と則夫は「三匹のおっさん」として私設ボランティアのようなことをやらないかと誘ってきます。剣道家の清一、柔道家の重雄、電子機器の専門家の則夫の三人は、ご近所の平和を守るための活動を始めます。

 孫の祐希がバイトをしていて清一の新たな職場であるアミューズメントパークでの売上恐喝事件、町内に出没する痴漢、重雄の妻の登美子が密かに逢瀬を始めた元同級生だという男、中学校で飼育している鴨の虐待、則夫の娘の早苗と祐希の間をかき混ぜる早苗のクラスメイトの潤子、商店街で健康グッズの販売と称して高齢者相手に催眠商法を行なう業者。これらの事件を見逃すことなく立ち向かい、鮮やかに解決へと導く「三匹のおっさん」のバイタリティとが何とも爽快な作品。
 綺麗事ではなく正義を貫く為には、時として強さと社会のしがらみから自由であることが必要であり、その意味では後進に道を譲って引退し、それまでの人生で培ってきたものを土台に第二の人生を歩み始める爺さんならぬ「おっさん」の三人の立ち位置というのは説得力を持っていると言えるでしょう。
 そして清一に突っかかる孫の祐希と則夫の娘の早苗という若い二人が、この「三匹のおっさん」とともに事件に関わることで、世代を超えて様々なことを学び取り、頼もしく成長していく姿もまた清々しく描かれます。
 清一をはじめとした「三匹のおっさん」には欠点もありますが、だからこそ彼らの振るう正義には押し付けがましいところもなく、説得力を持っています。
 そして高いリーダビリティ中にも、シリアスな社会問題は描かれていますが、本作の読み味はどこまでも痛快であり、割り切れないものをも含みながらも徹底してエンターテインメント作品に仕上げてしまう作者の手腕は見事なもの。若者と老人(ではなく、あくまでも「おっさん」)とを共に配置したからこその効果もあり、何とも微笑ましい作品でした。シリーズとして続編を楽しみにしてしまう1冊。