恒川光太郎 『南の子供が夜いくところ』

南の子供が夜いくところ
 事業に失敗して借金を抱えた両親と離れ、呪術師だというユナに連れられて南の島で生活することになった少年。島の聖域と集落とを行き来する幼い巫女の世界が終わる物語。ジャーナリストが島の人々に尋ねて回る、不思議な廟の由来。西洋文明の後押しを受けた圧倒的な武力を備えた敵と戦うため、伝説にある精霊の血を引く一族を求めて海に漕ぎ出す男の物語。息子を事故で失った男が見つけた崖下の金貨と心の隙に忍び込む悪霊の物語。島の野原に埋まり、半分植物になりかかっている、かつては冷酷な海賊だった男が少年に語る物語。間違ったバスに乗って辿り着いた"フルーツタウン"で、人ならざるものに次々に変わってしまう父親の物語。

 精霊や呪術師が息づく南の島を舞台に描かれる、連作短編集。
 これまでは日本的な「異界」を描いてきた著者が本作で魅せるのは、南洋に浮かぶ島々という舞台独特の「異界」です。日本的な異界よりも世界の境界は曖昧であり、人々の暮らしの中に精霊や悪霊が共存している、ファンタジーとしても一級の作品に本作は仕上げられています。
 一つ一つの物語は、タイトル作品の『南の子供が夜いくところ』に登場した少年タカシや、不思議な呪術師のユナによって時空を超えて繋がり、連作によって世界観の広がりを見せているといえるでしょう。
 どこかゆったりとした南国情緒の中に、しっとりとした情感や、ゾッとする怖さなど様々なものを織り交ぜた、上質のファンタジーがここにあります。