ジェイン・アン・クレンツ 『月夜に咲く孤独』

月夜に咲く孤独 (MIRA文庫 JK 1-8)
 元夫の親族に入れられた精神病院から逃走し、彼女を陥れようとする相手との対決のために私立探偵のイーサンと便宜上の結婚をしたゾーイですが、事件が終わりを告げてもイーサンとの結婚を解消することなく生活を共にし続けます。ですが、弟の命日が近付いてナーバスになるイーサンに気を使い、家のリフォームのことで対立し、ゾーイは二人の関係に不安を抑えきれずにいました。住んでいる部屋の新しい管理人とのいざこざ、やたらに突っかかってくる仕事上のライバルなどがゾーイを苛立たせる中で、病院から一緒に逃げた親友であるアルカディアの命を狙う夫が動き始め、ゾーイの周りでも不審なことが起こり始めます。

 『黄昏に眠る記憶』の続編であり、時期的にも前作からさほどの時間は経過しておらず、ゾーイは相変わらず自分の持つ第六感と精神病院での過酷な記憶が見せる悪夢に悩まされることになります。
 本作での事件の中心には、前作ではゾーイを助けてくれたアルカディアがおり、事故で死んだということになっていながらも実は生きていて彼女を殺そうとする夫がいます。ですが、主人公があくまでゾーイですので、彼女の視点では一番の問題はあくまでも、どこか手探りなままのイーサンとの結婚生活であり、ゾーイ自身の問題とイーサンの過去の問題が描かれるために、全体として些か詰め込みすぎて掘り下げの面での不足感はあります。
 特にアルカディアを殺そうとする夫の影が薄く、全体のボリュームの割に事件そのものの書き込みは実のところさほど多くもないという部分でのアンバランスさは指摘できるでしょう。
 杓子定規と潔癖症でゾーイを苛立たせる管理人など、個性的な登場人物の書き込みは面白いですし、幾つもの伏線の回収は最後で全て行なわれていますが、結末部で全てを詰め込んでしまった印象がやはり強いと言わざるを得ないでしょう。
 また、「続編」としての性質ゆえに、本作単体で読むのは厳しい上に、あまりにも多くの事柄を詰め込んだためにシリーズ作品としての掘り下げが上手く行っているかという部分も微妙なところ。
 あくまで前作の続編として楽しむ一冊ではあるでしょう。