[読了]有川浩『図書館戦争』/岡嶋二人『チョコレートゲーム』

[読了] 有川浩 『図書館戦争

図書館戦争
 もしも書籍に対する検閲が行われ、自由に本を手に取れなくなったら――そして、そのことに図書館が対抗して「図書館の自由」を掲げて武器を持つことが法制化されたら――という、「あったら嫌だな」という架空の物語です。
 図書館が自衛の為に武力を行使できるという設定そのものは荒唐無稽でありながらも、メディアや思想・言論をコントロールしようと試みる動きの萌芽を感じさせる現在の日本を思えば、決して「あり得ない話」ではないとすら思わされます。そうした情勢の中で、権力でもって力づくで書籍を取り締まろうとする相手に対し、主人公の女性図書隊員は未熟で青臭さ丸出しながらも、ただ真っ直ぐに立ち向かいます。
 『空の中』『海の底』というこれまでの有川作品の系譜から見れば、実は自衛隊が「図書館隊」に変わっただけで、これまでの作品の空気とのギャップはほとんど無かったと言えるでしょう。これまでと同様、そこで描かれる大人たちは、理想とはかけ離れた現実の組織における軋轢の中に身を置いていても、あくまでも格好良く綺麗事を守り通してくれて、どこまでも清々しくて好感が持てます。
 書き方によってはどうしようもなく陳腐な子供騙しの、内容など何も無い話になってしまいそうなのに、読み終えて素直に「良かった」と思える、この著者ならではの味は健在ですね。
 加えて、これまでの『空の中』『海の底』では章ごとに幾つかの視点に振られていたのが、本作ではほぼ主人公の視点を中心に描かれているために、非常にスッキリした印象になっています。収支テンポも良く、最初から最後まで中だるみをせずに、一気に楽しめた一冊でした。

[読了] 岡嶋二人 『チョコレートゲーム』

チョコレートゲーム
 中学生の息子の様子がおかしい。部屋には以前には無かった高価なものがあったり、親の気付かぬうちに2週間も学校を無断欠席したり・・・と、非常にリアリティのある異変から、物語は始まります。
 大人と子供の間には決定的な壁があり、主人公である父親は真相に辿り着くのにこの絶望的なまでに堅牢な壁に阻まれることになります。この、大人と「学校」という閉鎖空間に守られた子供の間の絶対的なギャップの描き方に嘘が無く、残酷なまでのリアリティを持った話だと言うことが出来るでしょう。
 息子のクラスメイトが死の前に残した「みんなジャックのせいだ」という言葉、そして息子の事を何とか調べようと同級生達に聞いて回っている中でふと漏らされた「チョコレートゲーム」という謎めいた言葉が何を意味するのか。
 息子が何をしていたのか、そして起こってしまった悲劇の真相を探すうちに父親が見い出したのは、驚くほどに救いの無い泥沼に子供たちがはまり込んでしまっていたことでした。
 最初は「ゲーム」だったものが、いつの間にか逃れようの無い実体を持って迫って来る現実に変質してしまう恐ろしさ、そして大人と子供の間の隔絶感など、残酷なまでにまざまざと描かれた作品でした。