図子慧 『駅神ふたたび』

駅神ふたたび

伯母から莫大な遺産を犬とともに相続する相続人に指名されてしまった大学教授は、何とかこの相続を放棄したいと考えます。もつれた身内の感情から依怙地になっている伯母を説得できないものかと良く当たると評判の謎の占い師の老人「ヨンバンセン」に相談した結果は、「地火明夷の上九」という、あまり良くない卦でした。(『犬の相続』)
易学学院に出入りする大学生の章平のもとに、どうやら母親と喧嘩したらしい妹が家出して来ます。この家族トラブルのことを「ヨンバンセン」に相談した章平に、妹の吉乃は激昂しますが、果たして彼女と母親の喧嘩の原因とは。(『妹の恋人』)
章平のアパートの隣に住む赤沢夫妻は、どうやら夫婦仲が上手くいっていないことが窺がえます。その赤沢さんの奥さんが彼との相性を「ヨンバンセン」に占ってもらったのだと言いますが、老人は「素顔の方が運勢がよくなる」と言っただけでした。(『浮気』)
うたた寝をした章平が見た夢は、自らが八卦仙の坤となり、乾帝側と坤家側との勝負に参戦するという奇妙なものでした。(『八卦仙 仙術大会』)
代議士が傾倒する怪しげな占い師は「ヨンバンセン」と同一人物なのか。章平の父親は、秘書として世話になっている代議士事務所を辞めるべきか、息子を通じて「ヨンバンセン」に相談しますが…。(『進退伺い』)

 雨の日に京成線の4番線ホームに現れる老人、通称「ヨンバンセン」。そして、彼の占いの卦を易学学院の面々が解いていく『駅神』の続編。本作でも、各話ともちょっと情けなさの漂う大学生である章平の視点で物語りは進められます。
 的確に問題の根幹を表すヨンバンセンの卦と、それを討論形式で読み解きながら相談者に問題の在り処を認識させるプロセスが、本シリーズの面白いところ。
 前作でもそうでしたが、本作の相談者は、決して占いに全てを任せているわけではなく、あくまでも「無料で占ってくれて当たると評判」の老人に、それこそ当たるも八卦・当たらぬも八卦の気持ちで相談事を持ちかけます。ですがその答えは中々分かり難く、易学学院の面々がその卦を読み解きながら問題の本質を相談者に提示することで道を指すことになります。
 その意味で、第1話の『犬の相続』で主人公の章平が語る台詞は、本作のありかたを端的に示していると言えるでしょう。あくまでも「占いの結果を信じることで、それが実現するように努力すること」こそが重要であるということを踏まえながら、章平は次のように語ります。

なんていうか占いだとワンクッション入ってますよね。これは運命なんだから、って前提。だから、悪いのは運勢とかウンであって、自分や誰かに責任を押し付けたりしない。そこが楽というか。

 前作に引き続き、どこかホッとする良質なシリーズ短編集として、高く評価したい1冊