天樹征丸 『東京ゲンジ物語』

東京ゲンジ物語
 彼女を初めて「ゲンジ」と呼んだ少女ユナの死と、その思い出を巡る様々なシンクロニシティ。アゲハチョウ、首を取られた人形、顔に付いた血と薔薇、輪舞曲とマリア像、蟻。死神に魅入られたかのようにゲンジの周囲で頻発する死と、彼女に思わせぶりなことを告げる死神のような青年、冬夜。ゲンジの周りで起こる殺人に引き摺られるように、ユナにまつわる忌まわしい彼女の記憶が甦りはじめます。

 やや粗い部分も感じられるものの、ライトノベル感覚のサイコミステリとしてはリーダビリティも高く、それなりに面白く読ませられる連作短編集。
 読者に対して仕掛けられる小さな錯誤から成る事件を描く各短編と、そこから呼び起こされる主人公の記憶の奥底にある少女の死を連動させ、一本のサイコミステリにするという試みは一応の成功を見せていると言えるでしょう。最終章において、少女時代のゲンジが体験した幼馴染の死が明らかになる過程は、それまでの書く短編に散りばめられた「記憶」が綺麗につながる鮮やかさを見せています。
 ゲンジの周りに頻発しすぎる死という、現実レベルに解体しきれない謎を残す部分が、若干宙に浮いてしまった感もなきにしもあらずではありますが、物語の落としどころとしては綺麗な着地と言えるでしょう。
 ただし、当初のWEB配信という媒体には合っていたでしょうが、単行本という媒体に適している作品かどうかと言われれば、本作の読者層を考えると若干の疑問は残ります。