西澤保彦 『身代わり』

身代わり
 帰宅拒否に陥ったサラリーマンが深夜の公園で、もみ合う男女の姿を見てしまいます。そしてもみ合ううちに弾みで刺されることになってしまったのか、男の方が刃物で刺されて死亡します。当初は乱暴目的で女性を襲った男が自分の持っていた刃物で命を落としただけと思われた事件は、その日に飲み会を開いていたボアン先輩こと辺見祐輔の証言と彼の感じた違和感で、複雑な様相を呈してきます。さらには女子高生が自宅で殺され、たまたまその家を訪れていた警官も殺される事件が発生しますが、事件には不可解な点が幾つも現れます。後輩のことを調べる祐輔ら、二つの事件の関係者に聞き込みを行なう警察関係者、そして『依存』の事件でダメージを負っていたタックとタカチの二人が現れることで、それぞれの事件は思わぬ真相を見せます。

 本作はシリーズ前作である『依存』の後日譚であり、タックとタカチ、そしてウサコもまだ事件のダメージからは立ち直りきれず、中盤過ぎまでは姿を現しません。
 そのため、事件の背景を調べるのは警察でありそして、ボアン先輩こと辺見祐輔が読者に一番近い「目」となって物語は進んでいきます。
 シリーズ読者としてはどうしても、物語の裏にいるタックとタカチがどうしているのかという点の方が気にはなるものの、一見何でもない事件の緻密な構造が徐々に見えてくる辺りには、間違いなく著者の話の運びの上手さを見て取ることが出来るでしょう。
 二つの事件がやがて一本の物語に集約することに関して言えば、ややサプライズは弱めではあるものの、ラストの着地点でしっかりと見せ付けられる毒は読者になんとも言えない読後感を与えます。
 そして、『依存』のあの衝撃の後に来る物語としての本作の位置付けに関して言えば、タックとタカチを物語の全面から引かせることで、作品世界により奥行きを持たせることに成功したと言えるかもしれません。
 いずれにせよ、この先のシリーズ展開、あるいはその着地点が益々楽しみです。