藤木稟 『バチカン奇跡調査官 黒の学院』

バチカン奇跡調査官  黒の学院 (角川ホラー文庫)

 良家の子息が通う寄宿学校が併設された修道院で、修道女の処女受胎、聖痕現象、涙を流すマリア像など、次々に「奇跡」が起こります。バチカンの「奇跡調査官」である科学者の平賀と古文書・暗号解読のスペシャリストのロベルトの二人は、これらの奇跡の真偽を調査するために派遣されますが、彼らの派遣の裏には、バチカン内部の勢力抗争の影響もまたありました。そして、二人が学院に到着するなり、連続殺人事件が幕を開けます。奇跡の審議と事件の裏にあるものを明かそうと、二人の奇跡調査官が挑みます。

 カトリックの総本山であるバチカン内部の派閥の権力闘争、さらには忌むべき異端者たちの姿が見え隠れするという、この手の作品ではある程度テンプレ的なストーリーを、キャラクターで読ませる意図のもとに創られたと思わしき一作。
 そうした意味では、ダヴィンチ・コードライトノベル的な描き方をしたとも言える作風に思えますが、視点の入れ替わりが多過ぎるのと、シリーズ第1作ということもあり、説明的な部分が多くなりがちで、全体的にやや煩雑な気はします。特に視点に関しては、もう少し整理しても良かったのではという印象。
 また、多くの要素や視点を入れ込み過ぎたために、肝心のキャラクターの魅力やそれによって読者を感情移入させるための書き込みについては、逆に不十分になってしまっている側面も指摘できます。
 奇跡の真偽や事件の真相に関しては、読者を納得させるだけの合理的説明はついているものの、一歩踏み込んで犯人側の論理という部分では推測に頼る部分も多く、また結末に関しては必ずしも全ての伏線についての書き込みを十分にしているとは言い難い部分もあります。
 シリーズ1作目ということで、今後の展開へのイントロダクション的な意味合いもあるのかもしれませんが、それにしてはやや未整理な部分は多い一作かもしれません。