"Hydra" Within Temptation (2014)

ハイドラ ~デラックス・エディション【2CD初回生産限定盤】

オランダのシンフォニック・メタル、Within Temptation の通算6枚目のアルバム。
昨年末に本作の1stシングルである"Paradise (What About Us?)"をはじめとした4曲が、ミニ・アルバムのような形でプレ・リリースされていましたが、そこに収録されていたデモ曲3曲も、本作においては「完成系」としての仕上がりを見せてくれています。(個人的には#8 "DOG DAYS" などは、デモの方のプリミティブさにも捨てがたい魅力があるように思います。)
既に本アルバムは多彩なコラボレーションが行われているアルバムであることはアナウンスされていましたが、その全貌は予想以上のものでした。
#2 DANGEROUS においては元KILLSWITCH ENGAGE のハワード・ジョーンズ、#3 AND EWE RUN では米国のラッパーのイグジビット、1stシングルで既に先行リリースされた#4 Paradise (What About Us?) では元Nightwishのターヤ・トゥルネン、#10 WHOLE WORLD IS WATCHING では Soul Asylum のデイヴ・パーナーがゲストで参加。
個人的にはハワード・ジョーンズとのコラボである#2などは、パワーメタルっぽさもあってかなり好きな部類。
Within Temptationシャロンと、あのNightwishのターヤとの二大歌姫の競演というだけでも十二分なサプライズでしたが、それぞれ個性の違うゲストとのコラボをしつつも、最終的に「Within Temptation の世界」として纏めあげてしまう上手さがこのバンドにはあると言えるでしょう。
ぶっちゃけた話、ゴシック・メタルとして認知されていた頃の路線を期待していたら、何故このバンドでそれをやるの?というくらい普通に聴ける楽曲が目につく部分も否定できませんが、新作を出すたびに新たなコンセプトを試みて、最終的にはどのアルバムも「Within Temptation の作品」として仕上げてしまうだけの器を持ったバンドになっているのは事実でしょう。
さらには今後、バンドの中心でもあり、Vo.シャロンの夫でもあるロバート・ウェスターホルトが事実上バンドの表舞台からは手を引く(とはいっても、アルバム作りやバンドの根幹に関わる事にはこれまで通りの役割を果たすのでしょうが)ということもあり、Within Temptation はバンドとしてまた新たなステージに上がりつつあるのかもしれません。

また、デラックス・エディションのDisc2は、カバー曲と日本盤のボーナストラックを合わせた6曲に加えて、アルバムDisc1に収録されている4曲のエヴォリューション・トラックという形に収録したものになっています。
このDisc2の#7〜#10は、Disc1で「完成系」となっている#3 AND EWE RUN、#6 SILVER MOONLIGHT、#7 COVERD BY ROSES、#9 TELL ME WHY の4曲を、制作途上の初期段階から徐々に完成系に近づいていく様を少しずつ繋げることで、いかにして楽曲が仕上がっていくのかを見せてくれるものとなっています。
最初は作り込んでいないシンプルな伴奏、時にハミングしているようなシャロンの「軽く歌ってみた」的なVo.のみの曲だったのが、少しずつ伴奏の音もシンセを加えて重厚になり、シャロンの歌い方もこれまで私たちがCDで聞いていたような「完成した」ものに近づき、さらにゲストのVo.も加わったりと、「進化」していく過程が分かるという、(一般的には需要があるかどうかは別として)楽曲がいかにして作られていったかの軌跡を記録した貴重な音源となっています。
カバー曲に関しても、これまでのシャロンの歌い方とは違った一面を見せてくれるものであり、このバンドの引き出しの多さを感じさせられます。