篠原美季 『よろず一夜のミステリー 炎の神判』

よろず一夜のミステリー: 炎の神判 (新潮文庫)
 大学生の恵がアルバイトをする、大会社の跡取りが道楽で始めた都市伝説を収集するサイト「よろいち」に寄せられたのは、「おひとりさま」の噂話でした。女子高生の間に広まっているというこの話は、「火を貸してくれ」と声を掛けられて、それを断ると体に火を付けられるというものでした。そんな中で、「よろいち」ビルの入り口で何かをしていた怪しげな男が現れたり、社長である輝一と過去に何かがあったらしい男のことで、恵は輝一の逆鱗に触れてしまいます。

 水・金・土…と続いてきたシリーズ四作目。五行説に基づいたテーマをサブタイトルに冠する本シリーズも、おそらくは残り一作となったようです。
 事件そのものの構図に関しては、割と早い段階での想像がつくのですが、テーマとした「火」にまつわる出来事の解釈は非常に説得力があり、これまでのシリーズで登場したものの中でもトップクラスに面白い展開を見せているように思います。
 反面、事件の犯人の心の裡や、その犯行に走るに至る論理といったものに関しての書き込みの薄さという点は指摘せざるを得ないでしょう。その辺りを掘り下げても、決して散漫になることなく、面白い一作となった気がします。