真梨幸子 『鸚鵡楼の惨劇』

鸚鵡楼の惨劇
 鸚鵡を飼っていたことから「鸚鵡楼」と称された新宿の料亭で、1960年代に起こった殺人事件。それから時を経て、取り壊された「鸚鵡楼」の跡地に建ったマンションには、歯に衣着せぬエッセイで売れっ子になった沙保里が住んでいました。マスコミ関係の仕事をする夫を持ち、名門幼稚園に息子を通わせ、エッセイストとしても成功し、富裕層の母親たちと付き合う沙保里ですが、何故か息子の駿が気に障って仕方がありません。過去に付き合いのあった男性とは彼が事件を起こしたことで別れ、今の夫と結婚して息子を生んだ彼女を脅かすものは何なのか。
 昭和の色濃く残る時代からバブル時代、そして現代へと時間軸を移しながらも鸚鵡楼という場所で繋がる事件の裏側にあった連鎖が描かれます。
 本作は「鸚鵡楼」という場所を核とした因縁ものではありますが、タイトルから受ける印象ほどにはゴリゴリの本格ミステリではなく、蓋を開けてみればいつもの著者らしいイヤミスとなっています。富裕層の住む高級マンションを舞台にした、ママ友や、また姑や小姑との微妙な関係、主人公の沙保里があからさまに周囲の人たちをエッセイのネタにして恨みを買う様子も、そして息子の駿の異常さを仄めかす仕草も、まさにイヤミスとしての真骨頂と言える描かれ方をされており、終始「不快」な何かを感じさせる筆致を見ることが出来ます。
 そして、冒頭に挿入される最初の事件の関係者の存在は常に頭にありますが、それが現代の事件に繋がって一気に解き明かされるラストは読み応え十分。落とすべきところにきっちり落としたと言うべき結末と言えるでしょう。