自分の飲んだペットボトルは味がおかしかった、に毒が入れられていたのだと主張する、炭酸飲料を飲んで意識を失った男。高齢の生活保護受給者を入院させている病院内で起こった血液パックの紛失と、それが不自然な状態で発見されたことで囁かれる吸血鬼の噂。小児科病棟での問題児三人組の不自然な病状の急変と、天使を見たと言う残りわずかな命しか残されていない少年。これらの謎を、統括診断部の部長の鷹央が鋭い診断能力でもって紐解いていきます。
天才診断医を探偵役に据え、患者に現れる僅かな兆候から病気を探り当て、そのことで起こっている不可解な事象までもつまびらかにするという、前作で既に確立している様式は本書でも踏襲されています。
本書では、こうした様式の上に、医者としては天才でありながらも、天才であるがゆえに人との関わりが壊滅的とも言える鷹央と、余命僅かな少年との心のつながりがクローズアップされることで、鷹央というキャラクターが「人間」として血肉を持った存在に近付いたのだと言えるでしょう。
ミステリとしてしっかりとした基本構造の上に、こうしたキャラクターの物語を盛り込んだことで、今後のシリーズ展開も益々楽しみとなった一作。