冲方丁 『マルドゥック・アノニマス 1』

マルドゥック・アノニマス 1 (ハヤカワ文庫JA)
 瀕死だった少女バロットと万能道具存在(ユニバーサル・アイテム)たる金色のネズミの姿のウフコックが、自らの存在とその有用性を賭けて壮絶な戦いを繰り広げてから2年。学生として平穏な生活を始めたバロットの代わりの新たなパートナーとともに、<09法案>のもと特殊能力を生かしイースターズ・オフィスで事件解決にあたっていたウフコックですが、馴染みの弁護士の要請で保護するはずだった証人を奪われ、ウフコックすらも大きな痛手を負ってしまう事態に陥ります。同じ技術により特殊な能力(ギフト)を得た敵の背後にあるものはいったい何なのか。

 多くの読者を魅了した『マルドゥック・スクランブル』三部作から13年、その間シリーズの過去篇や短編集などをはさみはしたものの、待望の続編が刊行されました。
 続編たる本作第1巻は、ウフコック(半熟卵=煮え切らないネズミ)と名付けられた存在が、自らの終焉に向かっていく物語となっています。『マルドゥック・スクランブル』では再生を、バロットらと壮絶な戦いを繰り広げたボイルドを主人公とした過去篇『マルドゥック・ヴェロシティ』では絶望を描き、その上に描かれる本作では最終的に何が描かれるのかは今後の課題なのでしょう。
 過酷な世界にで「万能」の名を冠されながらも、「煮え切らない」繊細さで自ら傷つくネズミの存在に救済は与えられるのか。続きを楽しみに待ちたいと思います。