阿部智里 『烏は主を選ばない』

烏は主を選ばない 八咫烏シリーズ 2 (文春文庫)

八咫烏の一族の頂点に立つ宗家。ですが実情は、四家が実権を握り、宗家の権威は大きく削がれていました。北家の下にある垂氷郷の郷長の次男の雪哉は、ひょんなことで日嗣の御子の若宮に仕えることになります。若宮に引き合わされるなり、若宮に仕える者が異様に少ない中で理不尽とも思える仕事ばかりを命じられ忙しく働く生活の中、元々あまり気乗りのしなかった雪哉が見たものは、宗家と四家の各家との間の苛烈な権謀術数の渦巻く世界でした。

前作『烏に単は似合わない』の裏側、前作では終盤になるまで姿を見せなかった若宮サイドの物語。垂氷郷からそれまで出たことの無い雪哉という、中央の高貴な人たちとは違う世界にいたからこそ育まれた雪哉の鋭い視点で物語は進みます。また、前作では華やかな女性の饗宴の水面下での四家の思惑の一端は描かれていましたが、そこに宗家の中でも渦巻いていた思惑というのはあまり語られず、本作ではそうした面を補完することでより深く物語世界を掘り下げることができたと言えるでしょう。