デビュー作『空を見上げる古い歌を口ずさむ』から思っていましたが、この著者の作り出す優しい空気と言うのは読んでいて物凄く居心地がいいですね。
『HEARTBEAT』も、切なさややりきれなさは内包しているものの、やはりどこまでも優しい作品です。
ニューヨークで想像を絶するほど過酷でつらい体験をして来た主人公の男と、彼が高校時代に「約束」をした女性「ヤオ」、そして二人の同級生の巡矢。
裕福な家の嫡子として大事にされてはいるが、病弱でしかも彼の知らないところで母から引き離されねばならない事情があったらしい少年と、その同級生の少女と少年。
世代の違う二組の三人の関係が見事にオーバーラップしており、そこを繋ぐ人物が明らかになっていくさまが綺麗に描かれています。むしろあまりにオーバーラップするために、ある種のトリックを警戒してしまうほどで。
ラストのちょっと切ない真相も、切ないだけでは終わらずに心が温まる一冊でした。
ただこの著者の作り出す世界には共通することではありますが、あまりにも「いい話」過ぎて、所詮奇麗事、作り物、と言ってしまえばそれまでです。ですが、せめてフィクションの中だからこそ優しくあって欲しいという願いは読んでいて昇華されている、そんな一冊です。
個人的には物凄く好きな話でした。