[読了]高田崇史 『QED〜ventus〜熊野の残照』

QED ~ventus~ 熊野の残照 (講談社ノベルス)

 QEDシリーズも10冊目となると、そろそろ歴史の闇を暴くという部分では、目新しいものはあまり出て来ないなというのが正直なところ。
 何よりも、「前にも言ったと思うが」と、説明を省略される部分が多くなっているのが少々気になります。1作1作を独立したものとして読むのであれば、やはりその辺りは重複しても(そして多少の簡略化は致し方ないでしょうが)キッチリとした説明を挟んで欲しいなと思ってしまいます。
 また、今回は日本神話の神々の名前などが多用され、それらの名称がややこしいせいいもあって、非常に歴史部分が複雑になってしまった印象もあります。
 説明の省略・あるいは「この話は今はやめておこう」と先送りされることで、全体として些か分かり辛い部分が出て来てしまったと感じました。
 ですが、本シリーズの核である、歴史の謎と現実に起こった事件が同時に進行・解明されるという要素を取り上げれば、非常にミステリとして上手く纏めたと言えるかも知れません。
 読み慣れた読者であれば、最初のページから警戒してしまう面も無きにしも非ずですし、あまりにも著者がフェアプレイに徹したために、かなり初期の部分でこのトリックの構造は読めてしまいます。
 さらに言えば、歴史の謎に力点を置くならば、今回の現実の事件要素も「不要」と判断されても不思議はないでしょう。
 その意味で、このミステリの構造の扱いに関しては好き嫌いもありますし、ミステリとして書くならもっとこの部分を上手く扱うべきだったということは指摘できるのですが、歴史の謎といっしょになっての最終的な落としどころは、ここ何作かの中では割と綺麗に落ちていたと言えるのではないでしょうか。

 もっとも、いくらシリーズとは言え、今回はレギュラー全員を動員する必然性は全く無かったのでは?という部分で引っかかりますが。