装丁などの「本そのものの体裁」を含めて一つの作品世界を構成するという試みは非常に面白いですし、ある意味そこは成功している作品だとも思います。
ただし、大正〜昭和初期を思わせるこの印刷やら装丁やらを抜きにして、純粋にテキストとしてのみの評価をしろと言われれば、「ワケの分からない1冊」と漏らしてしまうのを避けられない作品だと言えるでしょう。
ある種の幻想小説を狙ったのでしょうが、それにしても些か意味不明で、書き手の中でだけ自己完結されている部分があるようにも思えます。
西尾維新ならではの、構築してきた世界を呆気なくひっくり返す面白さというものがあるわけでは無し、キャラクターが立っていてもそこに感情移入するポイントがあるでも無し。むしろいわゆる「キャラ萌え」と呼ばれる要素は、これまでの既刊の西尾作品に比べれば著しく薄いものだと言えるでしょう(その辺は、敢えて狙いなのかとも思いますが)。
これだけ薄いにも関わらず、後半は残りの分量を見ながらひたすら文字を消化するような読み方をしてしまった1冊でした。
書かれている世界観が最後まで分からないままであるということで、今ひとつ物語を楽しむには至らなかったのかなという気がします。四回も死んだ十七番目の妹、足から生まれる子ども、人体交換屋など、非常に面白いし幻想小説を構成するには十分に魅力的なアイテムが揃っていながらも、読んでいて堪能しきれないもどかしさがありました。
ただ、いわゆるカストリ的ないかがわしさを感じさせる、どこかグロテスクな世界というのはあらゆる部分に良く出ていますし、非常に独創的ではあると思います。
ですが、コストはそれなりにかかっているとはいえ、この1冊にハードカバー1冊分のコストパフォーマンスを求めるのは微妙というのが正直なところ。