[読了]桜庭一樹 『少女には向かない職業』

少女には向かない職業

中学二年生の一年間で、あたし、大西葵十三歳は、人をふたり殺した。

 書き出しから物語の結末を提示して、冒頭に記された結末に向けて物語が展開されているという点では、『砂糖菓子の弾丸は撃ち抜けない』と同じ様式ですが、ライトノベルの枠組みを取り払った分、本作のほうが救いの無い物語となっていると言えるかもしれません。
 GOSHICシリーズなどが念頭にあったため、思い切って本格ミステリの方向に攻めてくるかと思いきや、以外にもというか順当にというか、変化球無しで救いの無い青春小説として綺麗に纏まっているというのが、本作を読んでの印象です。

 中学二年生という、自分を理不尽に侵害する周囲への抵抗を試みながらも、自らは何の力も持たない、そんな不安定な時期の少女の描き方の着眼点は秀逸と言えるでしょう。
 学校の友人の前では快活でお調子者の仮面をかぶり、家では働くこともせずに昼間から酒びたりの義父と母親の前で萎縮する。
 彼女の友達で似たような家庭環境の持ち主でゲーム友達の少年は、そんな不幸の影も無い別の少女と付き合い始める。
 そして追い詰められている本当の彼女を知らない学校の友達ともギクシャクする中、彼女と同じように追い詰められているもうひとりの少女だけが主人公の少女の傍にいる。
 その要所要所で語られる、悲しみによって洞窟に篭る原始人の寓意、「バトルモード」に切り替わるという言い回し。
 これら、非常に感覚的なエッセンスが、着実に積み上げられていく物語の中で非常に効果的にちりばめられ、悲劇性を演出していると言えるでしょう。

 途中何度か、彼女らの転落にブレーキをかけてくれそうなチャンスはあったものの、その全てがもう少しというところで消えてしまい、救いの無い結末に向かって着実に物語りは進められていきます。
 ラストでは顔なじみになったおじさん警察官が彼女に話しかけ、そして彼女はとある言葉を口にします。
 これが救いの無い物語の救いであったという点で、このおじさん警察官が『女には向かない職業』のダルグリッシュがやはり物語の結末に取った行動とオーバーラップし、何とも言い難い読後感が残りました。