[読了]岡嶋二人 『99%の誘拐』

99%の誘拐
 その当時の「ハイテク技術」を作中に盛り込むと、後々になって違和感を覚えることは往々にしてありますが、本作に関しては「今ではこんなのは・・・」というハード面での古臭さはあれども、実際にそれを用いた犯行というソフト面では、さほどの違和感は感じませんでした。その理由はおそらく、技術そのものの斬新さに頼ったトリックというよりは、それをいかにして駆使するかという点に重点が置かれた描かれ方にあるのではないでしょうか。
 また、誘拐ものというジャンルに関しては、実は個人的にはあまり好きでもなかったりすもします。その理由というのは多分、終始被害者の家族の視点による重苦しい空気であったりだとか、物語の起伏は所詮身代金受け取りの方法(そしてそれに失敗する経緯)だったりと、(偏見ではありますが)2時間ドラマなどで使い古された泥臭さのようなものがあるという先入観のせいでしょう。
 本作に関しては、その辺りがストーリーテリングの上手さで「読まされてしまう」作品でした。導入部における20年前の誘拐事件、そしてとっくに時効を迎えたその事件に端を発する新たな誘拐という、作品に奥行きを持たせる構造といい、実に上手く出来ています。
 メインである現在の事件に関しては、実は倒叙という側面も持ちつつも、犯人と警察――そして20年前の事件関係者との間の緊張感が、終始嫌味の無い知的ゲームのようでした。
 とにかく物語の構成が良く、犯人のトリックの緻密さといい、犯行に至る動機の説得力、話のテンポ、どれを取っても文句無しの1冊でした。