[読了 ジェイムズ・リーズナー 『聞いてないとは言わせない』

聞いてないとは言わせない (ハヤカワ・ミステリ文庫 リ 9-1)
 トビーは、町から離れたテキサスの一軒屋に住むグレースに農場で雇って欲しいと持ちかけます。最初は警戒していたグレースですが、次第に二人の仲は接近して深い関係になりますが、思いもよらぬ真相をトビーが打ち明けたのと同じタイミングで、銃を持った男が家に乱入してきます。突然の成り行きをトビーが理解する間もなく銃撃は始まり、そこから大金を巡って二人は犯罪集団を相手にすることになります。

 淡々と展開していく本作は終始読みやすく、思わぬ展開と裏切りの繰り返しで一気にラストまで中だるみすることなく進んで行きます。そうした部分では非常に直球のクライム・ノベルではありますが、「ノワール」という語感の持つ暗さは最後の最後まではさほど感じられず、それだけにあっさり風味ながらも結末の救いのなさが際立っていると言えるでしょう。
 ただし、あまりにも直球のクライムノベルであること、また展開の派手さのわりには終始淡々と物語が転がっていくので、特に大きなサプライズもなかったという気はします。
 登場人物の心の動きにしろ、それを含めてあらゆる描写をする文章もシンプルなスタイルが貫かれており、短いカットで場面転換がなされることであっさりしながらも洗練された雰囲気を持つクライムノベルに仕上がっていると言えるでしょう。