蒼井上鷹 『最初に探偵が死んだ』

最初に探偵が死んだ (ジョイ・ノベルス)
 名探偵の笛木に依頼をしてきたのは、最近作品が映画化されて話題となった作家の養子として育ち、自身も四人の養子を育て上げた内野宗也でした。内野は、義父から受け継いだ莫大な遺産を、妻と養子の間で分配する遺言状を作成していましたが、新たに二人の養子を迎えて新しい遺言を公開するということ、そして映画の反響で恨みを買っているということで、笛木は彼らの集う山荘に招かれることとなります。ですがその山荘で、深夜に起き出した養子の一人が見たのは、何者かによって殺害された探偵の姿でした。

 殺された探偵が幽霊となって、同じく殺された被害者の一人とともに推理をするという委嘱の展開で物語は進められますが、正直なところ序盤から既に、ダレ気味な感じを受けていました。
 幽霊という要素が必要だったのかといえば首を傾げざるを得ませんが、幽霊の推理というこの異色の要素を取っ払ってしまえば、あまりこれといった特徴もないミステリになることを思えば、一概に「幽霊という要素が無かったほうが良かった」とも言えないのが難しいところ。
 ただ、どこか間抜けで個性的な登場人物の可笑しさという、本来であれば作品の持ち味となる部分が、盛り上がりに乏しい本作においてはマイナスに作用している気がしました。
 雪の山荘、電話線が切られて外界と山荘を結ぶ橋が落とされたという、完璧なクローズド・サークルの舞台立ても、「登場人物の中の誰が犯人なのか」「次に殺されるのが誰なのか」という緊迫感が、死者となったはずの探偵達が呑気な会話を交わすことで薄れてしまっているように思います。
 さらに、異常な犯行の動機に関しても、そうした空気の中ではサプライズが弱くなってしまっています。
 幽霊が出現する特殊状況が、事件そのものや作品全体に対して何らかの仕掛けとなっていれば全く話は変わるのでしょうが、どうにもあらゆる要素が噛み合わないばかりか、マイナスに作用している印象の拭えない1作でした。