田舎からニューヨークに出て来て、大手レコード会社で秘書の職を得たべべ・ベネットは、ルームメイトであるスチュワーデスのダーリーンと一緒に、ロックバンドのメンバーとデートを楽しむことになります。ですが、中々来ない相手に焦れてホテルの部屋まで迎えに行ったところ、相手の男の死体を発見してしまいます。ベベがほんの僅かに席を外したために、たまたまアリバイに空白が出来てしまったルームメイトは警察に疑われ、また殺された男が会社でこれから売り出すバンドのヴォーカルだったために、ベベが密かに恋心を抱く上司は仕事上で窮地に追い込まれます。
1960年代半ばのニューヨークという、アメリカが輝いていた時代を舞台に、南部から都会に出てきた主人公が恋に事件に奔走する姿が溌剌と描かれます。
死体の発見者となってしまった彼女らは、警察や上司に渋い顔をされながらも、持ち前の行動力と無鉄砲さで懲りずに事件に首を突っ込み続けます。「都会的な女性」であろうと背伸びをするベベのそんな姿は何とも微笑ましく、彼女の暖かい視点を通して語られる登場人物も皆個性的に描かれます。
癖のある登場人物たちの多くは、主人公のベベを含めて欠点も多いのですが、それがまたコミカルで人間臭さに満ちており、総じて好感の持てる描き方であると言えるでしょう。
そして、被害者の死によって、殺害動機を持ちうる人間たちが次々に明らかになるわけですが、そこに見える生臭い人間関係に対しても、どこか無邪気で人の良いベベの視点が加わることで、本作はどこか憎めない登場人物の造詣に成功しています。
ただ、これだけ脇役に至るまで魅力的な人物の書き込みをしているのにも関わらず、犯人に関してだけは犯行に至った動機の説得力は今ひとつ弱い気がしますし、伏線もさほど緻密なものではなかったという印象は残ります。それでもキャラクターの会話に引っ張られてテンポ良く進む物語のリーダビリティの高さ、1960年代というアメリカ社会とそこに生きる女性の逞しさと魅力に満ちた作品として、本作は十二分に楽しめる1冊でした。