ジェフリー・ディーヴァー 『12番目のカード 上/下』

12番目のカード〈上〉 (文春文庫)12番目のカード〈下〉 (文春文庫)

 解放奴隷だった先祖のことを調べていた女子高生のジェニーヴァは、調べ物をしていた図書館で見知らぬ男に殺されそうになります。その犯行現場には、犯人が少女をレイプする為に使う道具一式と思われるものとともに、「吊られた男」のタロットカードが残されていました。この事件が単なる少女のレイプ未遂ではなく、彼女の調べ物が何者かにとって不利益になるような内容が含まれていた可能性を考えたライムですが、刑事の護衛は受け容れたものの、頑なに学校を休むことを拒むジェニーヴァには、狡猾な殺人者の手が迫ります。科学捜査の天才であるリンカーン・ライムら捜査チームは、ジェニーヴァを守るために、追跡の決め手となる痕跡を一切残さない犯罪者に挑みます。

 隠された陰謀があったと思われる140年前の事件が、現在の殺人者の動機にどう結び付くのか――比較的早い段階で方向付けられるこの捜査の軸から、いくつもの枝葉や伏線が複雑に派生し、本作は形作られます。本作は、アフリカ系アメリカ人のマイノリティとしての歴史、ハーレムにおける文化や貧困問題といった社会問題を織り込みつつ、それでいながら失速することのない急展開に次ぐ急展開という、著者の作風を踏襲する極上のエンターテインメントに本作は仕上がっています。
 また、これまでのシリーズ期間作品においてそうであったように、犯人との攻防も終始スリリングであり、犯人自身の人物造形にも説得力があり、そのアクの強さが一層作品を引き締めるものとなっています。さらには、殺人者に狙われる少女ジェニーヴァも、ライムやサックスを前にしても一歩も引けを取らない、伸びやかで実に生き生きとした少女として描かれます。
 前作『魔術師』ほどの大仕掛けではないものの、登場人物の魅力、巧みな展開、リアルな社会問題、そしてアメリカの歴史までをも絡めた事件の帰結など、全てにおいて著者の巧みなストーリーテリングの冴える作品。