真梨幸子 『女ともだち』

女ともだち (講談社文庫)
 同じタワーマンションで殺された、二人の独身女性。犯人とされる配達員の男性の裁判を傍聴するライターの楢本野江は、他に真犯人がいることを確信して取材を続けます。被害者の一人、高学歴で一流企業に勤める吉崎満紀子の"裏の顔"を暴き、そこから彼女を殺害する真の動機を持つ犯人を告発しようと楢本野江は、「ブラディータワー殺人事件の真相」という連載を雑誌で掲載し始めます。

 同じマンションの住人同士、ネットでの繋がり、ファンクラブ、仕事仲間、学生時代の友人など、様々な繋がりを持つ女同士の関係が、主人公のライターの目を通し、事件の裏にある被害者像を暴きだします。本作は、著者にしてはグロテスクな生々しさはやや控えめで、その分サスペンス色が強めの作品ではあると言えるかもしれません。とはいえ、女たちの裏側に隠されたドロドロとした「怖さ」は相変わらず絶妙。表面上「ともだち」であっても、互いに抱く女性ならではの嫉妬と見栄の張り合いが、実にリアリティを持って描かれ、作中では血なまぐさい殺人事件以上に、この女たちの心の在り方の方がグロテスクで怖いと感じさせられます。
 本作の被害者の人物像には、実際に起こった事件である東電OL事件の被害者がモデルとなっており、一流企業のOLで学歴も高く資産も持っていて、そんな事件に巻き込まれる要素は一見すると見当たりません。ですが実在の事件同様、"裏の顔"を持つ被害者の姿が明らかになるにつれ、実際にはその人物がスキャンダラスな生活を送っており、対人関係においても問題だらけであることが暴かれます。こうして、ひとつひとつ被害者の真の姿が暴かれていくさまは、まるでワイドショーやゴシップ記事でその人物の姿をのぞき見ているような、どこか悪趣味な楽しさに満ちていて、それが作品のリーダビリティにも繋がっていると言えるでしょう。
 また、同じマンションの住人同士の微妙な感情のしこりに、女性同士のドロドロとした嫉妬と見栄の張り合いが見られ、作中の一つのキーワードである「負けず嫌い」の負の面がたっぷりと描かれています。買った当時は最新のタワーマンションだったのが、近くにもっと良い新築のタワーマンションが建ったこともあって資産価値が下がり、そのことに我慢がならない人物。そして、我慢がならずに手放す人間がいたからこそ、そのおかげで他の住人の半分以下の値段で最上階の部屋を手に入れて悦に浸る女など、実に現実感を持った女性の姿が本作では描かれます。そこには、自らの生活のステータスとしてのマンションを介し、住人たる主婦や独身女性の嫉妬と見栄の張り合いを秘めた「付き合い」というものが描かれ、それらの物語は、状況といい心理描写といい、実にリアルな「女」の姿として読者に伝わります。
 そして、検察が見向きもしない「事件の真相」を躍起になって暴こうとするライターと、事件の裁判を担当する検察官もまた「女性」であり、彼女らが直接にぶつかり合う終盤もまた、読みごたえのある展開となります。終盤になって、これまでは法廷で無能な検察官とそれを見る傍聴席のライターという隔たった立場であった二人の女性が直接にぶつかることで、思いもよらぬ結末への加速感が突然に生まれます。
 結末はやや唐突な感じもしないではないですが、それは登場人物の個性の強烈さの陰に、そこに至るまでに実はしっかりと仄めかしや伏線が上手い具合に隠されていたと言うことなのかもしれません。