J・B・スタンリー 『カップケーキよ、永遠なれ ダイエットクラブ6』

カップケーキよ、永遠なれ (コージーブックス)
 ダイエットを通じて得難い仲間となったジェイムズたち5人は、停滞するダイエットの対策として、甘いものを食べたいという欲求を抑える催眠療法を取り入れようということになります。意外にも効果のあった催眠療法に喜びを感じつつ、さらにジェイムズは別れた元妻のジェーンと息子のエリオットとも良好な関係を築きます。仲間たちもそれぞれ幸せを掴み、勤務する図書館では新たに迎えた女性と仕事仲間である双子の一人が上手く行きそうな雰囲気を見せるなど、自分の周囲も幸せであることにジェイムズは喜びを噛みしめます。ですが、息子のエリオットがベジタリアンになりたいと言い出したことをきっかけに参加したフェスティバルで事件が起こり、さらにはジェーンを狙って悪質な嫌がらせが行われるなど、不安を煽るようなことが出てきます。

 前のレーベルが潰れて新たにコージーブックスから出たシリーズ完結作。
 邦題になっている「カップケーキ」がそれほど作品内で特別にクローズアップされている感は薄いものの、良質のコージーものであるシリーズ完結作としては、綺麗に終わる一つの形を見せてくれたと言えるかも知れません。
 離婚を経て都落ちとも言える引越しと転職の末、ダイエット仲間のルーシー、記者のマーフィーと、それぞれに恋愛遍歴とその度の失望を重ねてきたジェイムズにもようやく幸せが訪れ、図書館で一緒に働く双子や仲間たちもそれぞれに幸せになる大団円を迎えて本作は一応の完結となるものの、本書での幕引きは、またいつでも続編が出てもおかしくない終わり方でもあると言えるでしょう。これは、こうしたコージー・ミステリのシリーズ最終作としては、望ましいひとつの形をあらわしているのかもしれません。
 そして、ジェイムズたちがそれぞれ幸せを手にしていったのとは対照的に、本作の犯人たちが送っていた一見満ち足りた人生が、実は虚飾と誰かの犠牲の上にあった危ういものだったというのも、なんとも印象的です。被害者の、そして犯人の真実の姿、つまり人間の愚かさや、欲望のために何かを犠牲にする者の末路を描くことで、対照的に挫折を繰り返す駄目な人間でありつつも、常に不器用に前へと進む勇気を持つことで手にするジェイムズらの幸福を、本作では一層引き立てているのでしょう。