柳広司 『怪談』

怪談 (講談社文庫)

仕事で訪れたパーティ会場で出会った、白いドレスの印象的な女。彼女とは、十年前に会社の保養所で、低体温による心臓麻痺で亡くなった叔父を挟んで不思議な縁があることが分かります(『雪おんな』)。
自分が殺した男の死体が動いているような気がしたものの、その遺体を処理し終えて完全に犯行を隠ぺいしたと確信する男。ですが、警察の取り調べを受けることになった男は…(『ろくろ首』)。
残業を終え帰途についた男は、道端で泣いている女性が気になって声を掛けます。ですが、その女性の頼みをきくことになった男は、思いもよらぬ窮地に立たされることになります(『むじな』)。
秘密の会員制のクラブで供される食材は、どれも本来なら食材として使用されることが許されないような物ばかり。その食材の隠されていた保管庫を発見した警察官は、先輩の警察官とともに食材のリストを作り始めますが、間もなくその中にとんでもないものが入っていることに気付きます(『食人鬼』)。
自宅に覚えのない荷物が届くというトラブルが続くようになった女性。彼女は、知り合いから紹介された探偵を雇い、自分に対する逆恨みでこの件を引き起こしたという疑いを抱く相手の調査を依頼しますが…(『鏡と鐘』)。
マチュアのバンドのヴォーカルの青年が、正体不明の相手から招かれて歌うことを請われます。六日間そうして歌を供すれば、何でも願いを叶えると言われますが…(『耳なし芳一』)。

 小泉八雲ことラフカディオ・ハーンの『怪談』へのオマージュとして、現代の人間の闇にスポットを当てた、柳広司による『怪談』。
 小泉八雲の『怪談』では、怖ろしいことは「怪異」として描かれますが、本書においては一見すると怪異である現象の多くは人の手によって為されたことであり、だからこそ余計にゾッとする物語として仕立てられています。
 そうした部分で本書は、怪異に偽装した人間の犯罪を暴き立てるミステリであると同時に、人知を超えた何ものかの力が働いたとしか思えない、得体のしれない部分をきちんと残しており、『怪談』のタイトルに相応しい作品集になっていると言えるでしょう。