恩田陸 『劫尽童女』

劫尽童女 (光文社文庫)

 スティーブン・キングの作品を意識した恩田作品と言うことでは、本作のほかに上と外も『グリーン・マイル』を意識していた記憶があります(もっとも、あれは分冊隔月刊行という形式だけでしたけれども)。
 本作ではキングの『ファイアスターター』や70年代のSFを意識したと、巻末に著者自身のコメントが記されています。
 伊勢崎博士が秘密組織『ZOO』から子どもと供に抜けて、以来逃走している――という、ある意味陳腐なまでに王道的な始まりをするのですが、1話目のちょっとしたトリックが非常に効果的だったこと、また恩田陸ストーリーテリングの上手さでその陳腐さは全く気になりませんでした。
 ただし、秘密組織の側の詳細な書き込みは1話のみで後は少々扱いがおざなりになってしまった感もあります。『ZOO』に対抗する組織の存在や米軍の絡みなど、風呂敷を広げすぎて未消化な部分もあるように思えます。多くのレビューで言っておられるように、設定を生かしきれておらず後半が尻つぼみな部分が勿体無く感じる作品ですね。特に主人公同様、博士の研究によって生み出された特殊能力を持つ犬など、もっと表に出てくれば読者へのアピール度も相当高くなったのに、と思ってしまいます。
 総じてSF・超能力モノということでは、『常野物語』の方が作品世界の書き込み・完成度は高いのかなという印象を受けました。
 もっとも本作は巻末の後書きで著者自身が記すように、主人公の成長物語です。

SFというのは、世界と直面し始める思春期に、自分と世界について考えるための絶好の手掛かりであり、永遠の青春小説でもある。

 この文脈から言えば、著者の意図というのは作中に十分に反映されていると言えるのかもしれません。