小路幸也 『ホームタウン』

ホームタウン


 北海道の老舗百貨店の知られざる部署「特別室」。
 20代の若さでそこの部長の肩書きを持つ主人公は、いわばこの百貨店の探偵のような仕事をしており、絶大な権限を与えられている。彼は子供の頃に両親の殺し合いを目撃し、妹と共に「人殺しの血」を持つことにトラウマを抱えている――この主人公設定といい、昔世話になったヤクザとしてその世界に顔が効く男、主人公の上司でその道では誰もに一目置かれるような伝説的な人物など、普通に書いたら胡散臭いことこの上ない設定が盛り沢山となっています。
 ですが、その全てに細やかでありながら抑えた風味の書き込みが十分になされているために、登場人物の全てを体温と血肉を供えた「人間」として描くことに成功していると言えるでしょう。
 登場人物は押し並べて個性的であり、その多くが暗く怖ろしい部分を持っていながらも「いい人」なのですが、その描き方が何とも絶妙だなと思わされます。単なる敵役・勧善懲悪的な観点ではなく、あくまでも一人の「人間」としての実体を備えた描き方がされているというそれだけで、この本1冊を読者に「読ませ」てしまう力を持った1冊だと言えるでしょう。
 物語全体にしてみても、いかにもフィクション的な設定を使いつつも、「いかにも」では終わらないだけの、良い意味で地に足の付いた物語に仕上がっていると思わされます。
 デビュー作から一貫して「読んでいてどこかホッとする」「心にストレートに届く」、「いい話」を書く作家として、着実に力量を上げている作家だと評価するに足る1冊だと、本書を評することが出来ると思います。