J・D・ロブ 『この悪夢が消えるまで イヴ&ローク1』

この悪夢が消えるまで―イヴ&ローク〈1〉
 ロマンス小説では大ベストセラー作家である、ノーラ・ロバーツが別名で執筆した近未来ミステリです。
 もっとも、ロマンス小説としてのいわゆるハーレクイン的な要素はしっかりと詰まっていますし、数々のベストセラーを送り出しているだけあって「読ませる」ことには長けていて、ストーリーテリングの上手さは折り紙付きと言えるでしょう。
 近未来物ということで、物語の時間は21世紀半ば辺りの設定ですが、本当に近い未来に設定してあるため、普遍性を持ち続けることが出来るかどうかは別として、現時点から想定できる範囲でのリアリティはそれなりに持っているように思えます。
 残忍な連続殺人犯と、主人公の女性警察官との攻防の面白さ、ラストまで起伏に富んだ怒涛の展開、組織の軋轢など、細かい部分まで非常によく描かれた作品だと言えるでしょう。
 贅沢を言えば、もう少し犯人への手掛かりが欲しかった気はしますが、真相の合理的解釈にも矛盾はなく、主要なターゲットである読者がハーレクインの読者層であることを思えば十分なサスペンス部分の描き方なのでしょう。
 また、大抵この種の小説の場合、ヒーロー役である男性の描き方があまりにも女性に都合の良い、リアリティの欠如したヒーローっぷりなのですが、本作に関してはSF的要素も大きいことを考えれば、ある種のファンタジーと割り切ってしまえばそれほど気にはなりませんでした。