J・D・ロブ 『復讐は聖母の前で―イヴ&ローク6』

復讐は聖母の前で―イヴ&ローク〈6〉
 難しい事件も無い、比較的平穏な日の終わりに、逆探知出来ない通信を通じてイブに送られた殺人者の挑戦状により、残虐な一連の事件は幕を開けます。
 自らの凶行を、崇高な神の意志の代行であると告げる犯人の策略により、夫ロークの執事であるサマーセットに容疑がかかり、封印されたロークの過去の過去が絡むことで、警察官としてのイブの立場が難しいことになってしまいます。
 犯人の異常性、物語のサスペンス性ではこれまでのシリーズの中でも群を抜くものであり、その意味でとても楽しめた一冊。
 難点を挙げるとすれば、近未来ものであるという点でハイテク機器が犯行に使われるのですが、そのSF的な部分での甘さが見られるということ、捜査にあたりロークの過去の犯罪に触れないようにするための、イブによる上司への説明に説得力が薄い点などを指摘することは出来るでしょう。
 その一方で、犯人へ辿り着く道筋の合理性には無理はありませんし、プロファイリングなど従来以上に上手くストーリーに取り入れてあり、犯人の描き方はこれまで以上に楽しめました。
 物語的にも、イブの難しい立場、そして終始続く犯人との緊張感のある駆け引きなど、エンターテインメント性の高さを評価することが出来るでしょう。