連作短編集という北森作品ではお馴染みの形式の1冊ですが、これまでの作品とは少々毛色が異なった雰囲気だと言えるでしょう。
本作は、事実と論理的思考を積み重ねて合理的な解決を導く本格ミステリの方式というよりは、推理の裏付けは薄くその過程に若干の飛躍はあるものの、人間臭さがぐっと来るハードボイルド・ストーリーです。
そしてハードボイルドそのものといった感じの寡黙で思慮深いテッキと、お調子者で単純なキュータの男気溢れるこのデコボココンビ。暴力団との繋がりを持つ博多の悪徳刑事や、結婚相談所の社長でテッキもキュータの頭の上がらない「オフクロ」、博多のライブハウスの経営者で伝説のシンガー「歌姫」など、決して善良なだけでも悪辣なだけでもない、ひと癖もふた癖もある脇役たち。これら描かれる登場人物たちの個性が、何とも絶妙の味を出しています。
決してまっとうではない、傷を持つ登場人物たちのしたたかさや哀愁といったものが、雑然とした街の雰囲気とともに伝わってくる良作です。
6編の短編は、その進行とともに登場人物の個性を掘り下げると同時に、テッキとキュータの人生が少しずつ進んで行くように描かれ、何ともほろ苦い読後感を与えてくれた1冊でした。