パトリシア・コーンウェル 『真犯人』

真犯人
 女性ニュースキャスターを殺した罪で、死刑を執行されたロニー・ジョー・ワデルの検死解剖をケイは手掛けます。ですがその夜から起きた連続殺人事件の現場からは、ワデルの指紋が検出され、またケイのパソコンからは何者かが侵入した形跡が発見されます。そしてパソコンへの侵入に関わっていた疑いのある部下の一人が殺害され、ケイは疑惑の渦中に投げ出されます。

 本作では死刑になった男の指紋が殺害現場から発見されるという謎の魅力、ケイを追い込んでいく罠の巧妙さなどに加え、これまで以上に登場人物が魅力的に描かれている作品となっていると言えるでしょう。
 検屍官ケイ・スカーペッタのシリーズ第4弾となる本作では、元恋人のマークを失ったことで、周囲との間に壁を作り上げ、そのことがケイを窮地に陥らせる一因となっています。大切な相手の喪失によるケイ自身の苦悩と同時に、刑事のマリーノやケイの姪であるルーシーらのケイへの忌憚の無い思い、そしてケイを悩ませる恩師の意外な真実の姿など、周囲の登場人物についても深く掘り下げることに成功し、人間ドラマ的な要素でも楽しめる1作となっていました。
 また、本シリーズの持ち味であるコンピュータ犯罪や科学捜査を上手く物語りに織り込んでいると同時に、物語の構成面でも、起伏に富んだ展開、そしてひっくり返る事実、判明する意外な繋がりなど、絶妙なバランスで配置されていると言えるでしょう。