ジル・チャーチル 『毛糸よさらば』

毛糸よさらば
 クリスマスを控え、日々の子供の世話や家事に加え、教会のバザーの準備に追われるジェーンは、大金持ちの夫の元に嫁いで以来疎遠だった友人のフィリスを出迎えに出掛けます。ですが空港で再会を果たした旧友が突然紹介した、生き別れの息子だというボビーの感じの悪さに、ジェーンも腹を立てることになります。どうやらこのボビーが原因で、フィリスにベタ惚れの夫と喧嘩になったらしく、彼女は当分町に居座ることになると言い出します。そうした中でまたもや殺人事件までが起こってしまい、刑事のヴァンダインに釘を刺されながらもジェーンは事件を探ることになります。

 あくまでも子持ちの未亡人としての慌ただしい日常の中で、付き合いや噂話から事件の真相に迫る主婦探偵のコージーミステリぶりは健在で、子育てや人間関係に悩む主婦の姿や生活感はこのシリーズの魅力のひとつです。
 また事件に関しても、非常に良く練れた人間関係や伏線の上でのフーダニットであるので、安心して読めるクオリティは保証されていると言えるでしょう。平凡だけれども、それが故の魅力を放つジェーンの視点で展開される物語のテンポは、前作同様に極めて良いものです。
 事件の真相――犯人やその動機、隠れていた人間関係なども、決してありふれたものではないにも関わらず説得力を持っているものであるのは、物語の構築の上手さ、そして適度に心地良い日常感覚を読者に感じさせる地道な描写力ゆえでしょう。