マーゴット・ダルトン 『惑わされた女』 

惑わされた女
 幼い少年がショッピングモールで連れ去られた事件。少年の両親は離婚しており、親権者の母親は地元の名士の一族、父親はクロアチア移民の一族であり、相手もしくはその親族が息子を誘拐したのではないかという疑いを彼らはそれぞれ口にします。担当刑事のジャッキーは互いへの不信を露わにする元夫婦の周辺での聞き込みを続けますが、サイキックだと言うポール・アーヌセンが関係者しか知らない情報を口にし、彼に対しても疑いを深めます。さらには悲嘆に暮れる母親が、意外にも取り乱し方が少ないような違和感をジャッキーはおぼえますが・・・。

 親権争いの末の誘拐事件なのか、もしくは全くの第三者による営利目的誘拐なのか、皆目見当がつかない中で、意外な展開を見せる中盤から、徐々にそれまでは今ひとつ見えてこなかった関係者たちの本当の姿が明らかになる過程が丁寧に描かれた作品。
 終盤近くなるまではあまり派手な展開も少ないのですが、互いに反目しあう一族の姿や、主人公のジャッキーとアルコール中毒の祖母との難しい関係、家庭問題を抱える相棒の刑事、そして家出をしてきた十代の少女とのぎこちない生活など、登場人物の丁寧な心理描写が無駄なく物語りに配置されていると言えるでしょう。
 ただ、犯人の隠された異常性を思わせる具体的な描写が不足気味であることによって、結末を迎えても今ひとつ不完全燃焼に感じる部分もありました。
 シリーズはまだこの先何冊か続くようなので、主人公らのキャラクターの掘り下げがこの先どう行われるかは気になるところです。