谷原秋桜子 『砂の城の殺人』

砂の城の殺人 創元推理文庫
 スペインで父親が失踪してから5年、父親を探しに行くための資金作りの次なるバイトは、廃墟を撮影するカメラマン瑞姫の助手。「2日で5万円」に釣られたものの、危険を伴う撮影に同行してすっかり怯える美波が親友の直海とともに連れて来られた廃墟は、瑞姫の実家で、12年前に母親が失踪を遂げた家だとのことでした。ですが、瑞姫の兄らも合流したその家で、瑞姫の記憶のままの母の服装で、まるで地面から這い出してきたかのような異様なミイラを発見した上に、外界とここを繋ぐ唯一の「橋が落ちた」と告げられ・・・。

 クローズド・サークルものですから、限られた容疑者の中で犯人の目星は割と簡単につきますし、物理トリックも拍子抜け、と思いきや、最後で上手い具合にひっくり返す演出は、再開されたシリーズへの著者の意気込みを感じさせる意欲的なものと言えるでしょう。
 さらに、主人公美波の失踪した父親探しにも進展が見え、シリーズとしても今後新たな段階に入ることを期待させる作品です。
 ただどうしても本作の事件においては、限られ過ぎた登場人物の中ですし、動機も明解であるために、かなりの捻りは加えられてはいるものの、犯人の意外性という面では弱さも感じます。また、推理合戦で真相を何度もひっくり返す部分を最後の方に詰め込んでしまったことで、些かのバランスの悪さも感じる部分はあります。さらに、探偵役が入れ替わること自体には問題ないものの、どうしても真打の登場が遅いために、物足りなさも感じてしまいます。
 そして、美波に対して「段階的な『丸投げ』」を責めた修矢の言動が、序盤と結末部では若干変わっていることへの、もう少し掘り下げた書き込みがあっても面白かったのではないかという気もします。
 ですがこれらに関しては、丁寧な伏線やシチュエーション作りの上手さ、あるいは登場人物の描き方の上手さゆえに、期待値が高かったことで逆に物足りなさを感じてしまう結果だったということはあるかもしれません。