ジル・チャーチル 『飛ぶのがフライ』

飛ぶのがフライ
 親友のシェリイと共に保護者の代表として、子供たちのサマーキャンプの候補地の下見にやって来たジェーンですが、都会を離れてそのキャンプ場の経営を始めた夫婦にも、どうやら悩みの種がある様子。キャンプ場の周辺には、開発を反対する狂信的な環境保護団体がいたり、不審者がうろついたりする中、ジェーンとシェリイは夜道で死体を発見してしまいます。ですが、通報を聞いて保安官が駆けつけた時には、確かに二人が見たはずの死体は、何の痕跡も残さずに消えてしまっていました。

 本書では、ジェーンの生活を彩っていた、良い関係を続けている刑事のメル・ヴァンダインも、難しい年頃で手を焼かされる子供たちも今回は登場せず、電子メールで連絡を取る程度という辺り、物足りなさはあるのかもしれません。その辺り今回は、「主婦探偵」の持ち味も、主婦業からは離れた場所にジェーンがいるせいか、これまでよりも少々薄味な感じはします。
 そして、メイントリックである死体消失と、死んだはずの人間が生きていた謎に関してですが、トリックそのものは非常に単純ではあるものの、ジェーンが真相に気付くための伏線には無理がありませんし、犯人逮捕の証拠の提示も過不足なくされてはいます。
 ただ、ミステリとしてもコージー的な物語、人物の描き方など、総体的に見れば、可もなく不可もなくといった感じで、色々と物足りない1作と言わざるを得ません。

 また、本書が訳者の浅羽莢子さんの最後の仕事となってしまったそうです。今にして思うと高校時代くらいから、読み易いなと思うと浅羽莢子さんの訳が多かっただけに、昨年の秋くらいに訃報のニュースを見た時は、非常に残念に思ったのを覚えています。
 本書も、シリーズの前の作品からは5年以上空いていたそうですし、色々とスムーズには行かない可能性もあるでしょうが、このシリーズの翻訳が誰かに引き継がれ、早く次作以降も手にするこのを楽しみにしています。