パーネル・ホール 『パズルレディの名推理』

パズルレディの名推理
 平和なベイカーズヘイブンの共同墓地で、ある日身元不明の若い女性の遺体が死んでいるのが発見されます。警察署長のハーパーは、この女性が持っていた"四)D-ライン(五)"と書かれたメモを見つけ、これがクロスワードパズルである可能性から、新聞のクロスワードを作っている有名な"パズルレディ"のコーラ・フェルトンに意見を求めます。コーラと共にこのベイカーズヘイブンで暮らす姪のシェリーは、別れた夫に見つけられることを怖れて、頑なに自分たちが表に出ることを拒みますが、地元の新聞記者のアーロンに、朝刊におばの顔写真まで掲載されたことに憤慨します。そんな中、アーロンの勤める新聞社に第二のヒントと思われる紙が送られ、さらには今度はコーラの友人でベイカーズヘイブンの住人までもが死体となって発見され…。

 小心者の探偵スタンリー・ヘイスティングスのシリーズとはうって変わり、本作では好奇心とバイタリティに満ち溢れ、お酒好きで酔いどれながら自ら事件に首を突っ込むコーラという、実に味のある老女が探偵役を務めます。また、舞台を小さな田舎町に据えたことで、どこかのんびりとしたコージーミステリの雰囲気もたっぷりです。
 また、大酒飲みで好き勝手に振舞って姪のシェリーを悩ませるけれどもどこか憎めないコーラ、生真面目なシェリーと彼女の言葉尻を捉えてはからかってくる新聞記者のアーロンをはじめ、警察署長のハーパーや彼女の娘など、実に個性的な登場人物たちが生き生きと描かれています。
 パズルが軸となって推理を進める物語展開も、クロスワードの使い方や事件との関連に無理がなく、結末まで論理にも破綻は無く、非常にテンポ良く進みます。
 クロスワードパズルというものの性質上、邦訳にはかなりの苦心が見られますが、非常に面白かったです。