ジェイン・アン・クレンツ 『夢見の旅人』

夢見の旅人
 夢や睡眠に関する研究を行っているベルヴェデーレ研究所で、死んだ所長の息子は後任の所長となるなり、イザベルを解雇します。「明晰夢」と言われる、自分が夢を見ていることを認識しながらみる夢により、人間の問題解決能力が飛躍的に向上するという研究を実証し、自身も高度なレベルの明晰夢を見ることで、同じような能力を持った人間を分析する仕事をしていたイザベルですが、新しい所長はそれを、父親のいかがわしい研究だと切り捨てます。ですが、イザベルに夢の分析を依頼してきていた匿名の依頼人は、実は犯罪捜査を行う政府の秘密機関であり、彼女の能力を必要としていました。そしてイザベルをスカウトするために彼女に接触したエリス・カトラーは、以前の事故で死んだ男がまだ生きており、殺人を行っていると信じていました。

 "レベル5の明晰夢"だとか、登場人物たちが携わる研究やその分析が一般的ではないために、導入部では少々まごつきますが、読み進めていけば非常に良く練られたサスペンスであったということが出来るでしょう。
 また、既に死んでいる男が凶悪な殺人犯であるという謎自体にはトリックも捻りもないものの、徐々に判明していく事件の構図が明らかになる最終局面は、意外性の面で評価の出来るものでした。
 ただ、物語の中核でもある高度な「明晰夢」を使った犯罪捜査というガジェットが今ひとつ説明不足であり、作中でいかがわしい霊能力とは違うと言っているにも関わらず、使われ方としてはかなりご都合主義の超能力めいた印象も無きにしも非ずという気はします。また、序盤で思わせぶりに登場しておきながら、終盤まで使われることの無かった登場人物もおり、些か全体的に未整理な面も気になります。
 ですが事件の構図そのものは非常に良く出来ていますし、中盤からの展開は一気に読ませられるだけのリーダビリティは保持していると言えるでしょう。