ポール・アルテ 『狂人の部屋』

狂人の部屋
 百年ほど前に狂人であると噂されていたハーヴィー・ソーンが謎の死を遂げたハットン荘の一室は、今でも封印され、彼の呪いが一族にかかっているとされていました。その部屋を開けた現当主のハリス・ソーンは、彼にとっては大叔父であったハーヴィー・ソーンの予言の力を受け継いだとされる弟に不吉な予言をされ、そしてその通りのことが起こってしまいます。百年前の事件を思わせる現場の不審な様子、そして次々に現実となっていく予言。当主の姻戚関係に連なることになったポーラの幼馴染であり、彼女と密かに恋人関係をも築いていた私立探偵のパトリックとともに、ツイスト博士も事件の解明に乗り出します。

 次々に現実になっていく予言と、あかずの間を開いたことに対する呪いめいた何かを匂わせるような事件の展開に、さらには複雑な恋心が絡んだ人間関係までもが加わり、事件の構造は一筋縄では行かない印象を与えられます。
 ですがこれらは全て終盤で、不可解な事象は実に見事に説明が付けられ、どこに繋がるのか見えにくかった伏線も綺麗に生きてきます。さらには、敢えて合理的な回収をされなかった謎も良いバランスで残されて、いかにも古典の風格を思わせる読後感を残すことに成功していると言えるでしょう。
 特に見事なのが、「予言」の使い方など、犯人が周囲の人間を操る心理トリックの妙であり、本格ミステリとして非常に完成度の高い作品となっていると評価出来るでしょう。
 「フランスのカー」の異名に相応しい、「いかにも」という不可解現象や大仰に装飾された謎は、決して装飾過多には陥らず、その絶妙な加減に加えて地に足の着いた解決がスッキリと決まっています。
 また、物語の運びも非常にスムーズであり、単に古臭い古典ミステリをなぞるだけというような読み難さも皆無で、小説としての完成度も評価に値するものでしょう。