北山猛邦 『アルファベット荘事件』

アルファベット荘事件
 売れない役者の未衣子は、劇団の先輩で看板女優の美久月と、事件にしか興味のない探偵のディの三人で、岩手にある「アルファベット荘」に招かれます。ですが、敷地内に奇妙なアルファベットのオブジェの置かれたこの館で、ゲストを出迎えるべき主人はおらず、鍵を掛けて封印をしておくと開けた時に見知らぬものが入り込んでいるという、「創生の箱」の中でゲストの一人が死体となって発見されます。

 いわゆる雪の山荘もののミステリですが、どうも序盤から悪い意味でのライトノベル的な、薄っぺらいキャラクターが鼻についた1冊。いわくありげな登場人物たち――とくに、過去すら持たず事件にしか興味のない探偵のディ、美人だが面倒臭がりでズレた言動を取る美久月、エキセントリックな振る舞いをする興信所の探偵の遠笠など、その人物造詣が作中においてすらリアリティを感じられず、中途半端にキャラ立ちを狙った描写であるという印象を抱かざるを得ませんでした。
 ただトリックに関しては、いかにもなバカミス的である部分もありますが、「創生の箱」と死体の出現の大掛かりなトリックは、本格ミステリとしての高い評価をし得るものでしょう。個人的にはこういう真正面からの大掛かりなトリックは大好きです。