今邑彩 『金雀枝荘の殺人』

金雀枝荘の殺人 綾辻・有栖川 復刊セレクション (講談社ノベルス イH- 2 綾辻・有栖川復刊セレクション)
 扉は施錠され、全ての窓は開かないように釘で打ち付けられて封印された洋館から、館の管理人と持ち主の一族の若者を加えた6人の死体が発見されます。身内が互いに殺し合ったかのようなセンセーショナルなこの事件をマスコミも忘れかけた頃、残されたいとこたちがこの館を再び訪れます。美貌のドイツ人女性エリザベートの肖像から始まった、館の呪いの真相とは。

 93年に講談社ノベルズで刊行された作品の復刊。
 大量殺人のあった洋館、過去の悲劇、怪奇現象、グリム童話の見立て殺人、一族の因縁、密室などガジェット満載の、最近ではあまり見ることのなくなったガチガチの館もの。
 70年前の使用人一家を襲った惨劇と、1年前の事件、そしてさらに現在が結び付いて、館に秘められた過去を暴きだすという本作は、とことんまで「いかにも」な雰囲気を満喫できます。その意味でも、綾辻行人が言うところの「本格ミステリ=雰囲気」は非常に濃厚と言えるでしょう。本格ミステリで館ものが好きな読者であれば、おそらく本作の持つ雰囲気はストライクゾーンのど真ん中なのではないでしょうか。
 実際に殺人者が犯行に至った動機にどこまでリアリティがあるかと言えば微妙でしょうし、探偵役を務める人物の対応のぬるさも気になります。また、冒頭で本筋の重要なヒントがかなりあからさまに提示されてしまっていることで、結末におけるサプライズが薄れてしまう部分もありますが、作り込んだ本格ミステリならではの空気が個人的にはかなりツボです。