小路幸也 『HEARTBLUE』

HEARTBLUE (ミステリ・フロンティア 40)
 NY警察の失踪人課に勤務するワットマンのもとに、サミュエルという少年から相談が持ち込まれます。サミュエルはワットマンも知る<彼>とともにNYの地下の暗闇で過ごした少年であり、里親のもとで暮らしているペギーという少女が消えたと、言って来ます。調べるうちにペギーの事件と奇妙な類似のある事件が過去にもあったことが分かります。一方、NYを訪れていた巡矢は、知人の女性フォトグラファーが偶然に撮影したワットマンの写真を手にいれますが、そこには写っているはずのない少女の幽霊が写り込んでいました。その写真を見たワットマンの父親が突然倒れてしまったことで、巡矢は写真に写った少女の幽霊のことを調べ始めます。

 本作では、前作『HEARTBEAT』の<彼>を中心に、巡矢とワットマン、地下出身の少年サミュエルが結び付けられています。前作であまりにも鮮烈な印象を残した<彼>はそのまま登場人物の胸に生き続けていて、そのことが彼らの起こす行動にまで結び付いていると言う意味で、本作では実際には登場することのない<彼>の存在感の大きかった作品。
 その意味では前作を読んでいることが前提となっている部分での、未読の読者に対する厳しさは否めないものの、ワットマンの追う事件と巡矢らが追う写真に写った少女の幽霊の謎が、徐々に接近して行って一つの過去へと辿り着く物語の展開は綺麗な帰結を見せていると言えるでしょう。
 また、サミュエルを中心とする<彼>を知る人々が押し並べて魅力的な個性を放っており、前作からの登場である巡矢だけでなく、彼らの今後をも知りたくなるような一冊でもありました。
 ミステリ的な部分でいえば、前作の終盤で作品タイトルの意味が突然浮かび上がってきたような衝撃こそ感じなかったものの、事件の本当の真相にワットマンが気付くための伏線などの丁寧さは実に見事。
 物語の展開上ある程度読者を選ぶ部分はあるものの、全体的に魅力的な登場人物が多く描かれており、今後もこのシリーズが続くのであれば、作品世界に深みを持たせるというスピン・オフ作品としての役割は大きなものなのとなるでしょう。ラストで明らかになる真相とそれがもたらす結末は、決して無条件なハッピーエンドではありませんが、それだからこそ残る余韻のある作品でした。