深水黎一郎 『エコール・ド・パリ殺人事件 レザルティスト・モウディ』

エコール・ド・パリ殺人事件 レザルティスト・モウディ (講談社ノベルス フK- 2)
 エコールド・パリの美術の権威でもある画廊の社長が、自宅でナイフに刺された死体となっているところを執事に発見されます。執事が駆けつけた時には現場は密室になっており、高い位置にある窓の付近に血痕が残っていました。捜査にあたった刑事の海埜は、被害者の絵を見せてもらうために突然やって来た甥の瞬一郎に会い、気ままに首を突っ込んで来る瞬一郎に振り回されることになります。

 画廊のオーナー・密室殺人という組み合わせといい、美術論を挿入しながら淡々と進む展開、また人物造型やその配置といい、悪く言えば古臭く地味なミステリ。人物に関しても、ある程度キャラクターは立っているのにも関わらず、あくまでも作品全体の印象が地味であるのは、著者の堅実さの表れでもある反面、読者へのアピールという点では若干損をしている印象も受けます。
 ただし一見して欠点にも思えるこうした地味さも、構造がしっかりしているからこそ感じるオーソドックスさという意味ではこの著者の良い持ち味でもあり、必ずしも欠点にはならないでしょう。
 また、作中で随所に挿入される美術論に関して言えば、それらは決して専門性の高い知識ではなくあくまでも一般的なものの範疇に留まっているとは言えます。ですが、事件との関連性において薀蓄だけが浮いてしまうこともなく、挿入された作中作である美術論や、登場人物たちの会話の中で補足されるエコールド・パリの画家たちの物語が、事件の根幹を最後の最後で綺麗に浮き彫りにします。
 単純にフーダニットと密室の謎だけを追えば地味な作品と言えますが、本作においてはトリックの破綻のなさ以上に、ホワイダニットの演出部分が評価されてしかるべきでしょう。
 全体的にアピール度の低さでは明らかに損をしている部分もありますが、デビュー作に続いて二作目の本作でも窺い知れる、しっかりと地に足のついた作風は、安心して作家買いを出来る作家としての期待が出来るものでした。